崖っぷちに来た日本の医療産業
〜バイオ・ヘルスケアベンチャーは一丁目一番地としての期待に応えられるか?〜
(株)ファストトラックイニシアティブ 代表取締役 木村 廣道氏
日本は医療先進国といわれている.高齢化社会を迎え,高度・先端医療の高価格化に伴うサービスとしての医療の発展が予想される.また,同時に格差社会が浸透すると考えられるため,医療のセーフティーネットが必要となってくる.従って,これからの医療は,個人を中心に据えたQOL産業として発展することが重要である.
生活習慣病は,将来の医療においても主要な市場である.しかしその病因が複合的であるため,治療薬の開発は困難である.近年,高まる開発リスクに対応するため,世界レベルでの審査基準や市場の統一化や,巨大企業メガファーマの誕生といった製薬業界の再編成が起きた.その結果として世界の製薬市場は,2005年までの10年間で2,524億ドルから5,669億ドルへと二倍の規模になった.
しかし,日本の製薬市場の規模には変化が見られない.その成因には,米国における医薬品R&D投資が4倍の伸びを見せているのに対し,日本では依然として同程度の投資を行っている点が挙げられる.現在,日本発の製薬は人気があるのだが,それは過去の投資成果である.世界市場の規模と日本のR&D投資を考えれば,今後日本の製薬産業の発展は厳しいものになると考えられる.
また,R&Dでは大学との連携も重要である.しかし日本では臨床試験体制に不備があり,大学の基礎研究との連携が不足している.さらに,政策の欠如により,産業ニーズに追いつけていない.経営上にも,脆弱な経営戦略や医師等のプロフェッショナル雇用の不足などの不安が残る.このようなことから,世界第二の市場という地の利があるにもかかわらず,日本の製薬産業に発展の遅れが生じているのである.
さらに日本の製薬市場は,上市が他国より遅い,薬価制度が不透明であるという欠陥をもつ.このことから,グローバルメガファーマにとって,製薬のポートフォリオが日本だけ異なるという状況になっている.
このような厳しい状況に置かれているものの,高齢化社会の到来とともに,需要は急拡大するだろう.これからの事業開発モデルとして,ローリスク・ローリターンの“個別化医療”が考えられる.この個別化医療は,第二次の再編成を引き起こす可能性もある.遺伝子診断,細分化された小さな市場への特化,短期間・小額の研究開発投資という特徴から,バイオベンチャーの活躍も予想される.
しかし,これまでの日本のバイオベンチャーは,設立数の割に事業として成り立ってないものが多い.ヒトへの有効性・安全性を担保するインフラが脆弱である現状を踏まえると,今後の経営状況は厳しい.一般のベンチャーキャピタルにとっても,ライフサイエンスやヘルスケアやリスクが高く,投資傾向は不活発である.このような状況下でバイオベンチャーが成功するためには,大手製薬企業が進出できない分野の事業が狙い目である.また科学技術の発展のみならず,社会制度の変化も考慮に入れた事業計画が求められる.
株式会社ファストトラックイニシアティブ
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早稲田大学におけるベンチャー支援とインキュベーションセンター
早稲田大学大学院 アジア太平洋研究科 大江 建教授
早稲田大学インキュベーションセンター事業計画案
早稲田大学インキュベーションセンターでは,開所以来5年間で基盤を整えてきた.具体的には,学部生への起業家講座の開講やベンチャーへの投資が活動の中心であった.現在は,(1)大学発ベンチャーの支援,(2)墨田区との包括提携活動,(3)ASEAN地域における起業家教育の連携普及事業進めている.
(1)の大学発ベンチャーの支援では,学生ベンチャー5社,教授ベンチャー15社の成果を出している.有望なベンチャー企業については,インキュベーション施設内に入居させ,支援を続けてきた.しかし,近年は成長が硬直した企業もでてきており,これらの企業には環境の変化が必要であると考えられる.(2)の墨田区との包括活動では,「すみだサテライトラボラトリー」を設置し,早稲田大学の研究室や支援ベンチャー企業を入居させている.(3)のASEAN地域における起業家教育活動では,インドネシアやタイにおける地域活性化,若年層起業家の育成を推進している.
今後は「起業家精神あふれる早稲田大学のシンボルとしてのインキュベーションセンター」として,新たな展開を予定している.インキュベーション事業,地域活性化事業,インキュベーション活動の国際連携事業の三つを軸として,事業を進めていく予定である.
インキュベーション事業の活動方針として,センター内に入居する企業への事業評価に厳しさを持つ考えである.その一貫として,入居年数の制限など,具体的な内容を詰めているところである.しかしセンター内には,学生ベンチャーと教授ベンチャーがあり,両者の性質は異なる.そこで学生ベンチャーに関しては,トレーニングとしての意味もあるため,教育機関のインキュベーションセンターである利点を活かした事業計画書作成ワークショップ等の支援を行う予定である.一方の教授ベンチャーに関しては,事業としての成功の見極めも含めた支援活動となる.これらの活動を通して, 2010年までには早稲田大学発ベンチャーの上場を目標とする.
本年度の新規事業では,バーチャルインキュベーションセンターとして,コミュニュティーの開設を予定している. また潜在的な有望ベンチャーの発掘のため,理工系研究室を対象としたテクノロジー・ブーツ・キャンプを開催し,起業のための講演を行うなど導入教育を計画している.さらに,インキュベーションマネジャーの育成講座の開設も計画している.
早稲田アントレプレヌール研究会(WERU)の変遷と今後
早稲田アントレプレヌール研究会(WERU)は,1992年にベンチャービジネスの研究を目的として発足し,十数年を経て実践の段階まで発展した.今までの研究成果を基盤とし,早稲田大学ベンチャーの育成実践を促進するというビジョンを持っている.
具体的施策として,毎年一回行ってきた早稲田ベンチャーフォーラムの回数を増やすことを検討している.また毎月2週目に行われている月例研究会に関しては,さらなる充実を目指すために,内容,講演者に合わせた日程調整が可能な不定期開催も視野にいれ,詳細を検討中である.また,ハイテクベンチャーキャンプの支援,国際ビジネスプランコンテスト参加への支援は,継続して行う予定である.
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